京都盲人福祉研究会
はじめに
視覚障がい者の場合、バスの行き先判別は車外スピーカーから聞こえるガイド案内を頼りにしている。
京都市営バスの全車両には、ガイドスピーカーが取り付けられている。
しかし、耳を澄まして車外スピーカーの音声を聞いていても、その案内が聞こえて来なかったり、行き先判別がしづらく、乗りちがえてしまったために、降車の時に危険を感じた事例もある。
誰もが安心・安全に乗車できる公営バスの運行を求める市民運動の一環として、「音声ガイドによる行き先判別調査」を実施することにした。
調査
まず1996年から1997年にかけて実態調査を実施した。
その結果、音声ガイドによる判別不能の数値がかなり高いことが明らかになった。
この調査結果に基づいて、改善を求める話し合いを交通局関係者と本会で数回重ねた。
交通局からは、今後ソフト・ハード面からの改善努力をする旨の回答があった。
2001年から2002年にかけて再調査を実施し、当局の改善努力があったかを検証した
調査方法
調査票には、
- 車外スピーカーからの音声がよく聞こえ、行き先判別できた。
- 車外スピーカーからの音声は小さいけれど、何とか判別することはできた。
- 車外スピーカーから何か音声は出ているようだが、行き先判別できない。
- バスは止まったようだが、音声ガイドは全く聞こえない。
- 調査員が感じたことを記載。
総合的調査結果
主な調査結果について初回(’96年から’97年にかけて)→再調査(’01年から’02年にかけて)を比較してみると、
項目 | 初回 | 再調査 |
---|---|---|
全調査件数 | 3198件 | 3175件 |
調査バス停数 | 131 | 130 |
調査結果
項目 | 初回 | 再調査 |
---|---|---|
1・2(判別可能) | 68.8% | 77.1%、 |
3・4(判別不能) | 31.2% | 22.9% |
この結果について、交通局からは、
「毎年1回、人権研修と一緒に職場研修を行っている。前回より引き続いて、この調査の結果を生かして行きたい。未だに不良対応があることは、気になる。」
このようにソフト面では、一定の職員教育が成されていること。市民からの苦情に対応していることなど。
ハード面では外部スピーカーがテープによるものから電子化され、また、段階的からスライド式ボリューム調整となったこと。車内放送と車外放送との操作が分離し、乗務員の外部音量操作が容易になったこと。
こうした改善策が報告された。
視覚障がい者に対する乗務員の対応という点からみると
今回は、視障者8名(616件、19.4%)、晴眼者23名(2559件、80.6%)の比で実体調査に関わった。
バス停に視障者が白杖を携え、盲導犬と伴に立っているさいに乗務員が意識して音声によるガイドをするかどうかにも注目した。
項目 | 判別可(パーセント) | 判別不可(パーセント) |
---|---|---|
視覚障がい者 | 422件(73.6%) | 151件(26.4%) |
晴眼者 | 1886件(77.9%) | 536件(22.1%) |
このことは視障者がバス停にいるからといって乗務員が特に気を使っているとはいえず視障者が音声を頼りに行き先判別をしようとしても4台に1台は行き先を判断できないという実情を表している。
交通局と本会の話し合いQ&A
Q1.乗車口の「ドアが閉まります」という音量ばかりが聞こえて系統案内が聞こえないという事例。
A1.系統番号や行き先の放送を出さずにドアを閉めてしまうので「ドアが閉まります」のみの音だけが聞えることになる。指導していきたい。
Q2.音声ガイドが無いので行き先を確認しようとしたが、乗務員でなく乗客から教えてもらった。と言う事例。
A2.インターホンを押せば車外放送が聞えるはず。指導する。
Q3.乗車する際 、バス停から離れた所にバスが止まり乗車口まで移動しなければならないという事例が多く報告されている。同様に降車のさい、車道に降ろされ歩道に上がろうとして、つまずく事例も多くある。こうしたことは乗務員自身の怠慢の他にバス停近くの不法駐車に原因するものが多い。
A3.京都の特性と言うものもある。
Q4.北大路ターミナルのホームドアとバスの開閉のタイミングによってガイドが全く聞えず判別できない実態があり、これらに対しても技術的な改善がなされないか?
A4.ホームドアの構造上、ドアオープンと放送とが同時になってしまう。こちらとしても気になっている。
まとめにかえて
前回・今回の3,000を超える調査数は当局にとっても貴重な資料となったようだ。この結果を職員教育に生かして欲しい。
我々としては、辛抱強く追跡調査を実施することにより判別不可能率を1割位に減少させたいものである。
この実態調査は「視覚障がい者のため」、という対象者を限定するものでなく、視覚障がいによる不利益はもとより、公共交通機関の果たすべき役割を考えていく市民的テーマとしていきたい。
ハード面がいかに整っても、それを有効に生かすためにはソフト面が伴っていかねばならないことが今回の実態調査でも明らかになった。
また、車外スピーカーからの音声ガイドだけでは行き先が判別できない実態があることから、視覚障がい者がバスを待っていたら「何号系統が来ましたよ」と声をかけていけるそうした市民への意識啓発活動も合わせて進めていく必要があるだろう。