「あゆみ」
1983年3月
京都盲福研便り第2号より
5.「enjoy walking」
1980年代、伏見区役所公会堂をお借りして月2回・日曜例会を行ってきた。
これまでライトハウスなど市内北部での活動が主であったが、南部にも例会の場を設けることによって、より広く市民啓発ができればとの願いから始めたものである。
点字学習の他、2か月に1回くらい、ゲストを迎えて一般の人と一緒にお話を伺う時間を持った。
ここで紹介するのは、関西盲導犬協会発足のために奔走されておられる初代会長とT訓練部長を1983年2月13日にお迎えしてお話を伺ったまとめである。
初代会長(獣医)のお話
昭和55年11月、関西盲導犬協会の旗揚げをした。現在会員300名、募金箱総数1600。近々財団法人となる見込み。
動物愛護の基本は「もの言わぬ弱い立場」にある、ものに対する愛情であり、これは人間にもつながる。この優しい心が弱い者を理解し、弱い者を虐げる現在の社会づくりを変えていくことになると思う。
盲導犬協会の仕事の第1は資金集めである。我々は「皆の愛で盲導犬を送ろう」ということで、企業、国や地方公共団体に頼らずに、自分たちの基金でやっていきたいと思っている。そのため、会員を増やして組織力を強めていきたいと考えている。遺産の1パーセントでも良いから自分が生きてきた証として、社会に還元してもらえたら。
「世界で最も安く、健康で優秀な盲導犬を育成し、盲人を安全に案内する」ことが目標である。何かをするための移動でなく、ただ歩くことを楽しむ(enjoy walking)と思っている。出張訓練は仕事を持つ盲人にとって切実なものである。技術的にも可能だということで導入した。盲人をガイドするには、人の手引き、ガイドソニック(超音波メガネ)、ロボットなどがあるが、それぞれ一長一短で、場合によって考えなければならない。
盲導犬を普及させるには訓練だけでなく、市民への啓蒙活動が不可欠である。
我々は、お金だけの福祉でなく、障がい者と一般の人が理解し合う中で、血の通った福祉を目指していきたいと考えている。
T訓練部長のお話
昨年12月、1か月ほどイギリス・アメリカの盲導犬訓練所に行ってきた。技術的には日本の方が上である。というのは、日本の交通事情が悪く、高度なものを犬に要求しなければならないからだ。またイギリスでは盲人の横断には常に人が「May I help you?」と声をかけて手を貸す。
イギリスでは、「ハンディキャップのゆえに付けない仕事はない」、盲人も様々な職業についており、政府は年金を払う代わりに職場を保障することに力を入れている。盲導犬は一般社会に普及しており、町中の主な施設に「ペットドックはご遠慮ください。但し盲導犬は除く」というステッカーが貼ってある。この場合の盲導犬はパピーウォーカーをも含んでいる。日本ではいちいち許可を取らねばならない。
盲導犬事業は盲人に対する福祉事業であって、犬の訓練はその一つである。盲導犬のユニット(盲導犬とペアになった者)は、社会に正しく受け入れられてこそ働くことができる。盲導犬は万能ではなく、ガイドをするだけなのである。
これからの福祉の課題として、晴眼者の側は「可哀そう」で出発するのでなく、「自分に何ができるか?」ということを考えて欲しい。また盲人の側も「何をして欲しいのか」をはっきり言って欲しい。
* 盲導犬事業は、その90パーセント以上を民間の助成によって支えられている。
私は「視覚障がい者の歩行手段の一つである盲導犬歩行も白杖歩行・ヘルパーによる歩行と同様に公的保障の中で位置づけられていくべきではないか」という考え方にある。
しかし、現状にあっては、事業者・ユーザー・ボランティアを含め、そうした立場を取る人は少数である。
2015年2月 大西 記