地下鉄に乗車する際、降りたときのことを考えて、決まったドアから乗り込むようにしている。そのドアから下車したら、数歩のところに昇りのエスカレーターの乗り口があるからだ。
その日は、乗り込む駅のホームへいくと、既に電車が停止しており、手近なドアから乗り込んだ。盲導犬に「チェア」と声をかけて空席探しをさせるのだが、近くに適当な所がなかったのかどうか。その車両の奥の方まで歩いていってから、座席を鼻先で知らせた。
そして、近くのドアから下車した。何時もの感覚ではないので、犬も私もちょっととまどった。行きつ戻りつしかけると、「何処へ行かれるのですか?」と声がかかった。「改札口に出ようと思っているのですが」、「近くにエレベーターがありますよ」と言われて、何時もなら「階段かエスカレーターがあれば」と御願いするのであるが、このときは、その人も改札口へ行かれるものと思ってしまっていたこともあって、「御願いします」と返した。私と犬はエレベーターの奥の方に入り、その人は「どのボタンかな」と独り言をいっておられたように思ったが、ドアが閉まり、入り口の方におられるであろう人に「いつもは階段かエスカレーターを使うのですけどね」と話しかけた。が、何の返答もない。そこで初めて自分だけが箱の中にいることに気付いた。入り口の壁際にボタンがあるか確認すると「あけ」と点字表記がある。そこを圧すとドアが開いた。外へ出ると先ほどのホームと同じ場所だ。エレベーターに案内してくれた人は、結局ドアを閉めるボタンだけを圧して外へ出られたようだ。
ボタンに点字表記があったので、何とか脱出することはできたが、そうしたものがなかったら混乱してしまったことだろう。
こんなこともあった。旅行先で7・8階建てのホテル内で、家人と一緒に食事を取るためにエレベーターに乗り込んだが、何時の間にか私と犬だけが箱の中に取り残されてしまった。家人は後ろからついてくるものと思って目的の階で降りたという。音声の案内も点字の案内もない中で、とにかくドアが開いたところで降りるしかない。外へ出て、誰かいないか気配を確認し、近づいた人に「ここは何階ですか?」と聞くしかない。携帯を所持していたから連絡を取り合えたものの不自由この上ない。
自らの足で確認しながら移動できる階段・エスカレーターに勝るものはない。